どうでもしか勝たん

格が違うので卍卍卍

伊藤の補題のお気持ち解説

前回に続き、オプション系の記事です。

ちなみに前回はこちら

今回はオプションプライシングにおいて避けては通れない伊藤の補題を"お気持ち"だけ解説します。

中の人は数弱だし、いかにも工学系の解説なんで数学的にアレな部分があっても叩かないでください…

もちろん、伊藤の補題の数学的導出を求めてる人は回れ右でお願いします!!(伊藤の補題は与えられている前提なので)

できること

原資産Sが存在して、その価格過程も分かっている(Wiener過程に従う)としましょう。つまり、原資産価格は(確率変動による揺らぎを伴った)時間の関数として表されるというわけです。

ドリフトa標準偏差bを用いて、原資産価格xの時間変化は以下のように表せます。

 x=a\mathrm{d}t+b\mathrm{d}z

ここで\mathrm{d}z確率変動を表し、標準正規分布に従う確率変数\varepsilonを用いて、

\mathrm{d}z=\varepsilon\sqrt{\mathrm{d}t}

と表されるものです。

ここまではWiener過程の一般化の立式をしただけです。

やりたいこと

やりたいことは、原資産Sを元にしたデリバティブ(オプション・先物フォワードなど)を確率過程で表現するということです。

ところでこのデリバティブは何の関数で表されるべきなのでしょうか。

例えばフォワード取引は、原資産価格と時間(と無リスク金利)に依存します。

また、オプションの価格変動の5要因といえば、原資産価格・行使価格・ボラティリティ・時間・無リスク金利です。

つまり、デリバティブの価格はこれらのパラメータの関数として表されればいいのです。

しかし、これら全てを勘案して議論を進めるのは大変なので、簡単のために、デリバティブ価格のうち、原資産価格xと時間t以外のパラメータは変動しない」という仮定を置いて話を進めることにします。

→付録にもう少し詳しい話を書きましたのでぜひお読みください。

伊藤の補題

ここで伊藤の補題の登場です。

【伊藤の補題

確率過程xが確率微分方程式

\mathrm{d}x=a\mathrm{d}t+b\mathrm{d}z

に従っているとき、xおよびtに従う(任意の)関数Gに対して

\mathrm{d}G=\left(\displaystyle\frac{\partial G}{\partial x}a+\frac{\partial G}{\partial t}+\frac{1}{2}\frac{\partial^2 G}{\partial x^2}b^2\right)\mathrm{d}t+\displaystyle\frac{\partial G}{\partial x}b\mathrm{d}z

が成立する

さてここでxを原資産の確率過程として、Gに求めたいデリバティブを当てはめることができるので、、?

あら不思議その価格過程が求まるじゃありませんか!!

結論

こう書いてみるとほんまかいな?感は否めないですね(特に数学的処理を端折ったので)。

ですが、原資産のドリフト係数a標準偏差bを測定して、求めたいオプションのx微分t微分が分かればオプションの価格過程が分かるのは伊藤の補題から明らかで、これこそが大きな進歩です。

おまけ

原資産の確率過程とそのデリバティブの確率過程を並べて書いてみます。

 \mathrm{d}x=a\mathrm{d}t+b\mathrm{d}z

\mathrm{d}G=\left(\displaystyle\frac{\partial G}{\partial x}a+\frac{\partial G}{\partial t}+\frac{1}{2}\frac{\partial^2 G}{\partial x^2}b^2\right)\mathrm{d}t+\displaystyle\frac{\partial G}{\partial x}b\mathrm{d}z 

これらの式をグッと睨むと第2項の確率変動\mathrm{d}zを消すように2式に適当な係数を付けて足し合わせることができます。

つまり、ポートフォリオ\Pi=\displaystyle\frac{\partial G}{\partial x}\mathrm{d}x-\mathrm{d}Gを考えることになるのですが、、

この議論から、かの有名なBlack-Scholes-Mertonモデルが導かれます。この話を始めると長くなるのでまた別の機会に!

付録

オプションについて考えたいと思ったとき、伊藤の補題を用いてオプションの価格変動を表すことについて、すんなり受け入れられましたでしょうか?

実際、伊藤の補題ではオプション価格を決定する5つのパラメータのうち行使価格・ボラティリティ・無リスク金利については一定であると仮定しています。

確かに行使価格は一定でいいでしょう。これは取引の最初に取り決めをして、そこから変わるものではありません。

無リスク金利もほとんど変動しないと考えて良さそうです。多少の変動はあるかもしれませんが、実務上問題なさそうです。

しかし、ボラティリティを一定と仮定するのは明らかに問題があります。VIX指数の急騰など、一般にボラティリティは大きく動くことが知られています。

実際、ボラティリティが時間変動する確率ボラティリティモデルや、市場で観測されるボラティリティスマイルを捉えたSABRモデルなどが実務の現場では使われています。

いつかこの話も書きたいと思います。